ここでは4つのカリキュラムを提案します。それぞれに「先生からのミッション」として、テーマを掲げ、宇宙へ行ったヒマワリの種を育てることをきっかけとし、土壌や微生物などについて、また地球環境などについて学ぶことができるカリキュラム案です。

先生からのみっしょん指令: "宇宙に直接タッチする、体験からスタートする"

2008年3月21日、ISSへ運ばれたサンプル(植物種子等)と土井隆雄宇宙飛行士(出典:NASA/JAXA)

2008年3月11日、JAXA土井隆雄宇宙飛行士は教育用試料の植物種子等を携えて国際宇宙ステーション(ISS)へ向けて飛び立ちました。その中に含まれていたヒマワリ種子も以来ISSきぼうモジュールでの9カ月近くの滞在を経て、無事地球生還を果たしました。2010年、専門委員研究室にてその一部が栽培され、同年秋以降、数多くの種子が無事収穫されました。2015年春、この宇宙フライト2代目種子を日本各地の園児、児童、生徒さんたちに送ります。土井隆雄宇宙飛行士や井上先生方に感謝して、ヒマワリ種子をみんなの力で育てましょう。

1グループにつき宇宙フライト2代目ヒマワリ種子(タネ)に加え、コンテスト応募グループ(学校枠)のうち、審査を経て選定された場合は月の模擬砂(レゴリス・シミュラント)(※1)(※2)の砂時計を贈ります。

NASAコンステレーション計画における月着陸船イメージ図(出典:NASA)

青少年のみなさんが宇宙フライト2代目ヒマワリ種子を手にとり、確かに宇宙に触れることから、宇宙開発が本格化する21世紀、宇宙進出が飛躍的に発展する3千年紀へ乗り出していくのが自分たちの未来であるという実感を深める一助にお役立て下さい。

本プログラムにおいて、宇宙フライト2代目ヒマワリ種子をみんなで協力して育てながら注意深く観察を続けることにより、この植物にヒマワリという名前がついた理由、その特徴を捜すジュニアサイエンティストとしてのトレーニングが自然に行われることとなります。新しく見つけた特徴の発表をしたり、みんなでそれを確かめたり、今回、参加して頂いたみんなにとって忘れられない、春から秋へ続いた一日一日、メモリアルな一年となることをJAXAは希望します。

ヒマワリ:sunflower / _Margarida

※1 (月のレゴリス):月の表面をおおう、岩石の砕けた破片、屑やガラスの粒子など
※2 (月のレゴリス・シミュラント):月のレゴリスを物理的、化学的に似せて作られた模造品

先生からのみっしょん指令: "切磋琢磨(せっさたくま)"

地球のサハラ砂漠:Sahara / veroyama

近くの砂や土壌を少量分けてもらい、虫眼メガネ、顕微鏡等を使って初めて目にするもののような新鮮な心持ちで改めて観察します。(その土地の所有者、管理者に事前に断ってからにして下さい)

中国最古の詩集"詩経(シキョウ)"に曰(イワ)く、「切(セッ)するが如(ゴト)く磋(サ)するが如く琢(タク)するが如く磨(マ)するが如く」

「切」は骨や象牙を切ること、「磋」はそれらを研くこと、「琢(※2)」は玉や石を打ち叩くこと、「磨」は磨く意味であると言います。

月のレゴリス(出典:NASA)

月のレゴリスを知ると、地球の砂や土はまさに地球の自然界の持つ力、風や水がもたらす"風化"という現象による切磋琢磨の賜物であることが判ります。地球の砂や土がいかに私たち人間や植物等、地球の生物にとってやさしく、また有難い存在であったのかという事実へ理解が進みます。

※2 (琢):歌集「一握の砂」、「悲しき玩具」等で知られる、岩手が生んだ漂泊と望郷の歌人、石川啄木(たくぼく)の名前の漢字とつくりが同じです。なお、啄木の訓読みは「キツツキ」です。

先生からのみっしょん指令: "全軍奮闘(ぜんぐんふんとう)"

千手観音:China-Stonecarving in Leshan / mckaysavage

「孤軍奮闘」(コグンフントウ)という言葉があります。他の助けを借りずに、自分だけ、自分たちだけで獅子奮迅(シシフンジン)の働き、懸命に頑張るという意味です。
一方、生物の世界では、自分だけ、自分の属する種類だけで生きている、生きていられると言うことはなく、実際は色々な他の生物がそれぞれ頑張って生命活動をしてくれているおかげで、命と命とを結ぶ網の目のような関連性の中にいる自分たちもまた生きていられるのです。
本プログラムでは植物「ヒマワリ」の種子を出発点にして、ふだん目にしないためにともすると見落とされがちな土中の動物、微生物たちと植物との関係、相互連携の営まれる生物社会について学びます。

マツタケ:matsutake / conbon33

生物の世界は「孤軍奮闘」ではなく、言わば「全軍奮闘」とでも言える関係性のネットワークに位置することによって始めて生存が果たせている事実、すべてが共にあることの意味を学びます。

先生からのみっしょん指令: "グローバルは何時でも何処でもユニバーサル?"

火星の植物栽培室イメージ図(出典:NASA)

21世紀は人類の宇宙進出が本格化する百年と言われます。しかしどんなに科学が進歩しようと、人が生活する場所に食料供給が欠かせないという根本から免れることはありません。人間の食料の基本は植物であり、火星以遠の深宇宙への旅においては食料をすべて地球からはるばる運ぶのではなく、当然少なくともその一部は旅の途中、さらに現地でも食糧の生産、中でも植物を栽培することが必須になると考えられます。深宇宙の世界で人の生活を営むにはすなわち、その環境における農業(植物栽培)の成功が重要です。今回の教育プログラムではその前段階として、近未来の宇宙開発で最も現実的な月での植物栽培にどのような科学的サポートが必要か考え学びます。

月植物栽培チャンバーイメージ図(出典:NASA)

一方、生物学の世界では、「重力が生物を形造る(Gravity shapes Life)」という概念があります。1Gという重力は地球上では普遍的で当たり前のように生物に常に作用している物理的因子です。しかし一旦地球を飛び出すと、例えば月では1/6G、火星は3/8Gです。そのような低重力の環境では植物はどのように育ち、新たな特徴を持つようになっていくのか考え学びます。
この授業から、色々な当たり前と思っていたことを新鮮な気持ちで振り返り眺め、それがなぜ当たり前で、また当たり前の前提が外れた時に物事がどうなるか、なっているのかという疑問の想起とそれに対する回答の捜し方、思い込みや既成概念に容易には足元をすくわれない、科学的な考え方を身につける下地がつけられます。何が普遍で何が可変か、グローバルな視野を持つ国際人さえ一気に通り越し、ユニバーサルな科学的地球人への第一歩です。