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種子への宇宙環境影響について

種子への宇宙環境影響

これまで数十年前に遡って、NASAやカナダ宇宙庁(CSA)などが中心となり、数百万人以上の学生、生徒らが参加した同様の”Seeds in Space”実験が何回も植物の品(種類)を代え、くり返し実施されています。それら植物の種子から一世代、栽培した試料の観察による結果、宇宙フライトをさせた試料グループ(宇宙フライト群)、地上に置いたままのグループ(地上対照群)の両者間において科学的に有意な違いはこれまでいずれの例においても認められていません (「宇宙種子ミッションの過去例」教材を参照)。

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▲(左)1984年の打ち上げに向けたトマト種子の準備作業風景。計画では軌道上に10ヶ月間の曝露予定だったが、実際は不慮の事故の影響等のため宇宙に6年近く置かれた。(出典:NASA)
▲(右)6年近く宇宙環境に曝露された後、1990年に地上へ回収された宇宙フライト・トマト種子が、宇宙飛行士らのホワイトハウス表敬訪問の際、ジョージ H. W.ブッシュ大統領(パパ・ブッシュ)へ贈られた。
(出典:NASA)

その主な理由として、
i ) 植物の種子は、放射線、時間、温度、乾燥など様々な環境因子に対し極めて高い耐性を有する。(植物は環境が悪化しても移動することができないため、そのような特質を持つようになったのかもしれません)
ii) 有性生殖を行う植物は、遺伝子を1対(二倍体)、またはその整数倍(多倍体)を持っている。そのため一つの遺伝子に突然変異が生じても、その対となる染色体内のもう一方の遺伝子(対立遺伝子)には変異はなく、一方生じる変異は劣性形質であることが多いため、この劣性形質は形となって現れる性質(表現形質)にまだならない。表現形質として現れてくるのは、変異が対立遺伝子の双方にもたらされた個体が生じた時であり、変異が一つの遺伝子に入ってすぐという訳ではない。
などが考えられました。

よって、今回のJAXA実験では、それぞれ1対の染色体を持つ二倍体植物でかつ、自家受粉*する性質のミヤコグサ、アサガオを試料としました。
(自家受粉* 花の受粉の仕方の一つで、花の雌しべが同じ花の雄しべの花粉から受粉すること)

本実験は自家受粉する植物の継代を行うので、2世代目以降に染色体上の特定の対立遺伝子双方に同じ変異が入った個体の得られる可能性が出てきます。これを観察するという手法で、DNAの抽出、分析等、特別専門的な実験、研究の助けを借りなくても、形となって現れた形質(表現形質)の違いから、いわゆる劣性ホモ*の変異体を見つけ出せます。
(劣性ホモ* 下記の式に示したように、一対の遺伝子の組み合わせにおいて、同一の場合がホモ(MM,mm)、異なる場合をヘテロ(Mm,mM)と呼び、またその遺伝子が劣性であることから、それらの性質を現すのに用いられる表現)

ある特定の正常な遺伝子をM、その対となる遺伝子に変異の入ったものをmと表す。
M m x Mm(自家受粉) → MM, Mm, mM, mm(劣性ホモ)

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▲突然変異誘発処理をしたアサガオの種子から突然変異体が出現するしくみ。M1世代の種子から栽培をはじめるが、突然変異は主に次のM2世代で生じる(ここの例では白花)。遺伝子の状態は丸で囲って示しており、Mが元の正常な野生型遺伝子。mは突然変異を起こした遺伝子を示す。(提供:仁田坂英二先生)

結果、宇宙フライト群、及び地上照射群には地上対照群と比べてどの位の頻度の上昇で変異体が見つけられるのか、その変異はどのようなものかが調べられるのです。

なお、アサガオ、ミヤコグサそれぞれの実験に参加することにより期待される教育成果は、「宇宙種子実験(アサガオ)の参加意義」「宇宙種子実験(ミヤコグサ)の参加意義」「ミヤコグサと根粒菌の共生」教材をご参照下さい。

また、アサガオ、ミヤコグサの変異例、およびその見分け方は、「江戸期の変化朝顔」「アサガオの突然変異体と見分け方」「ミヤコグサの突然変異体と見分け方」教材を、応用として「変異体が農林業に果たした役割、生物学的安全性」教材もご覧下さい。