ISEB学生派遣プログラム
【2023年度】第74回 IACバクー大会
派遣期間 | 2023年9月29日(金)から10月8日(日) |
---|---|
派遣先 | アゼルバイジャン バクー |
主なスケジュール
日付 | 内容 |
---|---|
1日(日) | ●ISEBプログラム(Orientation) |
2日(月) | ●IACプログラム(Opening Ceremony、Plenary、Welcome Reception) ●ISEBプログラム(Head of Agency (HoA) Interactive Session) |
3日(火) | ●IACプログラム (Plenary、Technical Session) ●ISEBプログラム(Lunchtime Session、 Networking Night) |
4日(水) | ●IACプログラム (Plenary、Technical Session) ●ISEBプログラム (Lunchtime Session) |
5日(木) | ●IACプログラム (Plenary、Technical Session、 Interactive Presentation Session) ●ISEBプログラム (Cultural Activity) |
6日(金) | ●IACプログラム (Technical Session、 Closing Ceremony) ●ISEBプログラム(Public Day Activity STEM Outreach) |
7日(土) | ●バクー市内 日本語学校訪問 |
◆IAC(国際宇宙会議)について
International Astronautical Congress(国際宇宙会議、IAC)は、International Astronautical Federation(国際宇宙航行連盟、IAF)が主催する世界最大規模の宇宙会議です。毎年秋季に開催され、最新の宇宙開発計画やアカデミックな研究成果の発表の場として、各国の宇宙機関、学者、研究者、企業、学生等が参加しています。IACは1949年に第1回目が始まり、2023年は第74回目としてアゼルバイジャンの首都バクーで開催されました。
◆ISEB学生派遣プログラムについて
本プログラムは、IAC公式プログラムに加え、ISEB参加機関・団体(AEM(メキシコ宇宙機関)、CNES(フランス国立宇宙研究センター)、CSA(カナダ宇宙庁)、ESA(欧州宇宙機関)、JAXA、KARI(韓国航空宇宙研究員)、NASA(アメリカ航空宇宙局)、VSSEC(ビクトリア宇宙教育センター))が協力して作る独自の国際交流プログラムへの参加機会を大学生・大学院生に提供しています。幅広い分野で将来の宇宙活動を担う学生の皆さんに、学術・人材交流を通じて宇宙分野の知見を深め、国際理解と親善の促進、及び研究成果の発表や宇宙教育活動を実践していただくことを目的に、毎年IAC会期中に実施されます。2023年は、ISEB参加機関より派遣された29名(AEM:5名、 JAXA:5名、KARI:7名、NASA:12名)の学生がこのプログラムに参加しました。
以下、ISEB学生派遣プログラムに参加した日本の学生の皆さんの感想を交えた活動報告をさせていただきます。※記載されている学生の所属大学・学年等については、IAC2023当時(2023年10月現在)のものです。
◆ISEB プログラム① Orientation
ISEB派遣学生と職員が会場に集まり、今年のISEBプログラムがスタートしました。 はじめに学生に参加してもらうSTEM Outreach活動の説明・ボランティア学生の募集を行った後、各宇宙機関の教育長から、今年のISEBプログラムのオリエンテーションと各機関の宇宙教育に関する取り組みの説明などが学生たちに伝えられました。その後、派遣学生間の自己紹介などのIce Breakを行いました。
◆ISEB プログラム② Head of Agency Interactive Session
本セッションは、ISEBを構成する各国の宇宙機関長が "ISZ (International Student Zone)"※ に集まり、学生たちの質問に答えていく対話形式で進行されます。ASA(豪州宇宙庁)のPalermo長官、JAXAの山川理事長、KARIのLee院長、NASAのMerloy副長官の参加の元、意見交換を行いました。その後、JAXA派遣学生は、JAXAの山川理事長、石井理事との懇談も行いました。
※ISZ (International Student Zone):ISEB学生の研究発表や人材交流の場として、IAC会場内に設置されるブースのこと。
- (中略)HoAとのふれあいも興味深かったです.自分や他学生との質疑を通して,HoAも同じ人間であると感じると同時に,自分が思っていた以上に広く俯瞰して物事を考えており,学生をエンカレッジしてくれました.例えば自分はKARIのHoAに対して"What are the keys to the mission success?" というシンプルな質問をしましたが,システムズエンジニアリングとプロジェクトマネジメントが大事という回答をもらいました.彼は過去に10以上の衛星プロジェクトに泥臭く取り組み,その経験からこれらが大切とのことでした.また,物事を俯瞰してみることの大切さを説いてくれました.HoAからのこうした直接的な言葉は,単に読んだりするよりも力を持っているかのように感じました.今後の自分の活動にも還元できるようにしていきたいと思います.
(派遣学生 森合勲武)
- 各宇宙機関の理事長への質問をするイベントでは、各宇宙機関が現在どのような姿勢・体制で宇宙開発に取り組んでいるのかや、それぞれの宇宙機関同士がどのように連携していきたいのかなどを把握することができ、非常に有意義な時間でした。その後、JAXA派遣学生はJAXAの山川理事長とより密に議論する時間をいただくことができ、日本の宇宙産業についてや、学生としてこれからどのような姿勢で宇宙関係に携わっていくのかなど、腹を割って議論を行うことができました。
(派遣学生 望月友貴)
◆ISEB プログラム③ Lunchtime Session
二日間にわたって他の学生やISZに立ち寄った聴衆に対して研究発表を行いました。JAXA派遣学生5名も自身の参加したプロジェクトや研究内容を発表し、質疑応答を行いました。
- 昼のセッションが走っていない時間を使って,各国のISEB メンバーが自身の研究するセッションで,各国発表スタイルも含めて非常に面白かったです。私たちは「小型衛星」をキーワードに発表を行い,前日いただいた北川さん(JAXA宇宙教育センター長)のアドバイスも含めて,私自身はかなり専門性を落とした形で発表しました。質疑への応答は今一つになってしまいましたが,ブース会場のような場所でピッチに近い形でそれなりに悪くない発表ができたことは,自分にとって大きな自信になりました。IAC の発表当日だったこともあり,バタバタしながらも充実した一日となりました。
(派遣学生 松浦将行)
◆ISEBプログラム④ Networking Night
ISEB派遣学生とスタッフを含めた "Networking Night"(交流会)を開催しました。ゲストとしてJAXAの若田宇宙飛行士や石井理事も参加し、各国学生との交流の機会を持ちました。
- ISEB Networking Nightでは、ISEB学生が複数チームに分かれてクイズ大会を行いました。若田宇宙飛行士の審査の元、宇宙に関する映画などのクイズが出題され、大いに盛り上がりました。宇宙という共通の関心があるだけで、すぐに打ち解けることができるのはこの業界の強みだと感じました。
(派遣学生 関根啓貴)
- ISEB メンバーとスタッフ,そして若田宇宙飛行士や理事の石井様が参加し,ネットワー キングを行いました.他国メンバーと交流を深められたほか,石井様や若田様と少人数で お話しさせていただく機会にもなり,各国の学生と研究の話やたわいもない話など,交流 を深めることができました.また,クイズ大会ではNASA のBen の活躍もありチームで 優勝しました!
(派遣学生 松浦将行)
◆ISEBプログラム⑤ Public Day Activity STEM Outreach
IACの一般開放日(Public Day)に、バクーの小学生から高校生を招いてSTEM教育のアウトリーチを行いました。ISEBの学生たちは折り紙を使ったJames Webb宇宙望遠鏡の鏡の制作と、火星の生物の創作のワークショップを行いました。多くの子供たちがISEBのブースに来場し、ワークショップに参加してもらい、宇宙の研究内容や将来の進路についてなど様々な質問に学生が対応しました。
- IACのイベントの中に、"public day"と呼ばれる地元の子どもたちを学会会場に招待するものがありました。私たちはISEBメンバーとして、子どもたちのアクティビティをホストするボランティア活動に参加しました。その中で強く感じたのは、宇宙にはそれ自体に人の心を惹きつける魅力が強く備わっているということです。土星環境を想像して絵を描く企画では、子どもたちが夢中になって惑星や星の絵を描く様子や、宇宙ミッションが描かれた参加賞のポスターをもらうと満面の笑みを浮かべて帰っていく様子を目にしました。宇宙教育活動を幅広く推進するには、このように宇宙自体の魅力を強く押し出して、楽しい・魅力的だと感じる活動を入り口にしてもらうことが重要と考えます。その際、楽しい・魅力的だと感じるポイントは人それぞれだと思います。今回のイベントでは、非日常の会場で宇宙について手を動かすことが、宇宙が普段身近ではない子ども達にとって効果的でした。宇宙教育活動を効果的に行うために、その対象がどんなことに興味を持つのか、宇宙ミッションの中で求められる課題解決のノウハウなのか、それとも国際的な協力関係の歴史なのか、宇宙開発のための法整備なのか、といったことを想像・議論することが重要と考えます。
(派遣学生 関根啓貴)
◆JAXA宇宙教育センター独自プログラム 日本語学校訪問
日本の派遣学生の独自プログラムとして、バクーで日本語教育を行っている「テルマンアバソフ中学校225番校」の協力を得て、JAXA職員と学生たちで訪問し、文化交流を行いました。バクーで日本語を学んでいる生徒から、日本語の歌を披露してもらい、その後は、JAXAの派遣学生が用意した日本に関するクイズや、アゼルバイジャン語と日本語でのゲームを行いました。
- 最終日に現地の中学校に行き,日本語を学ぶ子たちとの交流をしました.宇宙飛行士の 歌を歌ってもらうなど,おもてなしを受けました.日本人の「笑顔」の文化を大事にして いるということをおっしゃっていて,私たちも意識しないとなと思いました.
(派遣学生 松浦将行)
おわりに・・・
今年度は修士課程から博士課程の5名の学生がJAXAの派遣学生としてISEBのプログラムに参加しました。IACでの発表とISEBのプログラムで日々忙しく充実した日々を送ってくれました。JAXA派遣学生の参加報告書より一部抜粋した文章を掲載いたします。
望月 友貴
東京大学大学院 工学系研究科 航空宇宙工学専攻 修士2年
- 研究室に所属して研究開発に携わっていく中で、将来宇宙産業に何かしらの形で貢献したいという思いが徐々に膨らんできておりましたが、本プログラムへの参加によってその思いが更に大きく膨らみました。様々な方々とIAC会場内でお会いし各々の研究内容について議論したり、各企業の方々からどのようなビジネス展開を目指しているのかをお伺いしたり、また、ISEB学生メンバーとの密なコミュニケーションを取ったりして行く中で、私と同じように宇宙産業に魅力を感じてその産業の一端を担っていこうと考えている人に多く出会いました。今まで日本国内で開かれる学会にて日本人学生同士と同じような意見交換を行ってきたことはありますが、海外で行われる国際学会にて同様のことを世界中の学生・教授・企業職員・研究員の方々と行う機会はありませんでした。本プログラムを通して、次世代を担う20代・30代の若者の宇宙産業進出に対する期待を多く感じ、また私自身もその期待を一身に背負いながら宇宙産業に対して人工衛星設計・開発や研究などを通して貢献できる人材になろうという想いが強くなりました。また、博士進学を通してより多くの学びを得ていきたいという想いも強くなりました。
谷口 絢太郎
早稲田大学 基幹理工学研究科機械科学航空宇宙専攻 修士2年
【他国の学生との異文化交流】
- 日本の文化について興味を持っている学生や、日本語をすこし勉強している学生が多かったために、さらに異文化に進んで興味を持って、日本人の側からも興味を示していくことが、国際交流の上では重要なのだと思った。韓国とメキシコの学生が特に日本に強い興味を示しており、アニメやドラマを見る中で言語や文化を勉強したと話を聞いた。私の場合は、英語以外のドラマや映画は英語字幕で見てしまうなど、英語以外の言語に対する興味がわかないような生活をしてしまっていることが、国際交流の上でかなりの損失になっているのではないかと感じた。特にアゼルバイジャンの日本語クラスの学生さんを訪問した際には、もともと日本に興味がある学生さんであったこともあるが、距離もかなり離れている日本についての学びに関する意欲が高いことにとても感動し、日本のことを紹介するだけでなくアゼルバイジャンの文化についても一定程度学んで来なかったことを申し訳なく思った。
松浦 将行
東京大学大学院 新領域創成科学研究科先端エネルギー工学専攻 修士2年
【IAC参加・発表の感想】
- 初めての海外での国際学会ということもあり,本当に色々な国から多くの研究者が参加しており,こんなに宇宙をやっている仲間はいるんだなとうれしい気持ちになりました.今年はアゼルバイジャン開催ということで,中国やトルコの参加者・ブースがとても多かったらしく,普段であれば触れることのないような研究・企業に出会うことができ,貴重な経験でした.働き始めてからもチャンスがあれば参加したいなと思えるような,学会というよりはお祭りのような印象を受けました.
【プログラムを経験して得られたもの・想い】
- (中略)もう一つこのプログラムを通して得られたのは,「自分の意見」をはっきりと持ちそれを表現することの大切さです.学会など研究の場では当たり前のように求められますが,ちょっとした雑談や簡単なディスカッションの中でもやはり私はこう思う,というのが議論の入口なのかなと思います.雑談で相手に合わせてしまう,というのはついやってしまうのですが,特に国際的な場においてはその必要は全くないし,むしろ自分の意見をはっきり持っていたほうがよいなと思いました.表現のところは苦手とする部分ではあるのですが,気持ち的な部分と語学力的な部分両方をしっかり磨いていきたいです.
関根 啓貴
東京大学大学院 工学系研究科航空宇宙工学専攻 修士2年
【本プログラムを通じて得られたこと】
- 本プログラムを通じて得られたことの中で一番大きいもののひとつは、ISEBプログラムに参加した各国の学生との繋がりです。参加学生がみな同世代であることから、将来の進路はどうするのかなどを同じ目線で議論することができました。また、NASAのメンバーを中心に、PhDの学生が多く参加していたので、各国における研究予算獲得に関する事情や、宇宙工学分野におけるおすすめの学会など、今後のPhD生活を充実させるために重要な情報を入手することもできました。今後の学会でISEBメンバーと再会することが楽しみとなり、学会で発表する成果を出すべく、研究のモチベーション増加にも繋がっています。
【プログラム全般について】
- 本プログラムで得られた最も大事なことは、この派遣プログラムでともにブレーメンに行った派遣団の仲間である。約10日間寝食を共にし、日本語補習校授業やLunch Time Sessionのために長い期間グループで作業し、滞在中の夜は笑いあい、彼らと最高の時間を共有することができた。派遣団の皆は本当に優秀で、強い情熱を持っており、皆が将来大物になりそうな予感がした。私にとって、派遣団のみんなは大きな財産になった。大学の研究室にいるだけでは学べない多くのことを、本プログラムによって学ぶことができた。本当に貴重で、自分の人生にとって大切な10日間だった。
森合 勲武
東京大学大学院 工学系研究科航空宇宙工学専攻 博士課程1年
- 本プログラムを通して,非常に多くのものを得ることができました.中でも,世界中の同世代との出会い,HoAとのふれあい,現地での交流は,とても貴重なものでした. 個人的に大きかったものは,世界中にいる同志との出会いです.普段は狭いコミュニティで研究を進めていますが,プログラムを通じてお互いを知っていく中で,「自分は一人ではない」と感じられました.日々努力して宇宙に向けて研究を続ける(博士)学生が世界中にいるというのは,自分にとってとても心強い事実でした.さらに今回出会った学生は皆優秀でモチベーションが高く,非常に刺激になり,自分もさらに頑張らなくてはと決意を新たにする機会ともなりました.若田さんの言葉にもありましたが,こうした学生との出会いを大切にし,今後またIACで,あるいは世界のどこかで近況を報告しあうことができればと思います.